死刑制度の存廃に関する問題は、学術的研究としては、これまで主として法学関係の研究者によって論じられてきた分野ですが、本来は広く社会全体の問題として議論されるべきテーマです。
そこで、2023年10月20日(金)に、社会学の立場から死刑制度について研究されてきた櫻井悟史先生(滋賀県立大学人間文化学部准教授)を講師に招き、勉強会「『死刑執行人』から死刑制度を考える」を開催しました。
櫻井先生は「死刑執行人の日本史」「誰が死刑を担ってきたのか―死刑執行人の歴史的考察」等の著作があり、特に、死刑執行を担当する人の社会的・歴史的な位置づけや意義に着目した研究業績をお持ちです。
櫻井先生は、日本の死刑執行方法の変遷の歴史(斬首→絞柱→地上降架式→地下降架式、レバー式→複数ボタン式)を説明しつつ、主要な死刑存置国である米国や中国では死刑を執行される側の負担(苦痛)を考慮して執行方法が変化してきた歴史があるが、日本では死刑を執行する側の負担(苦痛)の軽減を目指す形で変化してきた特徴がある点において異質であることを指摘されました。
また、日本では歴史上「なぜ刑務官が死刑執行を担うのか」について議論されたこともなく、明治以降、死刑執行が「獄丁」「押丁」など監獄の中の「最下等の職掌」の役割とされてきた慣習と、上司の命令を拒否できないという服従という社会的条件以外には刑務官が死刑執行を担うことの必然性はないことも明らかにされました。
その上で、死刑執行を担うことにより刑務官はダメージを受けるが、これを単なる心の問題としてではなく、「労働者視点からの死刑論」として考察され、上司の命令により人を殺させられる職業が存在することなど(櫻井先生は、講義等では、あえて意識して「殺す」という直接的な言葉を使っているとのことです)、不備や説明されていないことが多すぎる死刑執行という場面についての議論をすることが重要であるとして説明をまとめられました。
勉強会は、会場とオンラインのハイブリッド方式で実施され、参加者からの活発な質疑応答もなされましたが、法律家のセンスとは異なる社会学・歴史学的な視点を提示いただいたことにより、今後の議論の深まりに繫がってゆくものと思います。
勉強会のレジュメは、櫻井先生ご自身が下記で公開されています。